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東京高等裁判所 昭和36年(く)52号 決定

少年 N(昭一八・八・二三生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の理由は抗告申立人提出の昭和三十六年五月五日付抗告申立書記載のとおりであるから、これを引用し、これに対し次のとおり判断する。

所論第一点について所論は原決定が少年の非行事実の(1)として認めた強姦未遂の点についてはその要件である暴行脅迫の事実はないのにこれを認めたのは事実誤認であると主張するものであるが本件記録を調査すると少年は判示のようにK子(当一五才)を人通りのない空地へ連れ行き語気荒く「お前は会社にいい男がいるだろう」「お前は嘘を云つているのだから三万円出せ、もし出さなければやくざの友達を連れてお前の会社に押しかけ俺とのことを話してやる、その男も傷をつけて動けなくしてやる」等と云つて同女を脅迫し、同女が畏怖しているのに乗じ同女を強姦する目的で同女を判示公務員住宅三階屋上の小屋に連れ行き同女の意思に反してズロースを脱がせ同女の上に乗り自己の陰茎を同女の陰部に押しつけたことが認められるから右少年の行為は刑法第百七十七条にいわゆる暴行または脅迫に該当することが明らかであり本件記録を調査するも原決定には所論のような違法があるとは認められない。論旨は理由がない。

第二点について、所論は強姦未遂罪は親告罪であるのに被害者の告訴もなくまた適法な被害届もない本件を審判したのは違法であり憲法七六条三項に違反する、また本件犯罪が成立するとしても本件は中止犯でその刑を減軽又は免除すべきであるから原決定の処分は著しく不当であると主張する。

しかし少年保護事件において審判に付せらるべき少年は少年法第三条所定の少年であつてかかる少年に対しその性格の矯正及び環境の調整に関し適当な保護処分を加えて右少年の健全な育成を期することが同法の目的とするところであるから、少年の犯した非行が本件のように親告罪にあたる場合であつても検察官が捜査の結果犯罪の嫌疑があると考えるときは少年法第四十二条によりこれを家庭裁判所に送致すべく送致を受けた家庭裁判所はこれを調査審判の上適当と認める保護処分をすることができるものと解すべきであるから論旨前段は理由がなく、また所犯が中止犯であるからと云つて刑法第四十三条後段の適用または準用があるとする所論もまた上記少年法の制定の趣旨に鑑みこれを採用することができない。論旨は理由がない。

第三点について、所論は原審の認定した暴行の事実は未だ暴行罪所定の暴行の程度に達しないのみならず警察側の作為により故意に事実を曲げて作り上げられたものであつて、暴行の事実は全く存しないと主張するものであるが、本件記録を調査し関係各証拠を総合するときは原判示のような事実が行われたことしかして右事実が刑法第二百八条の暴行罪に該当することは優にこれを認めうるところであつて、所論のように右事実が警察の作為により捏造されたものとは認めることはできないから所論は理由がない。

第四点および第五点について、所論は原決定の処分が著しく不当であるとして、その取消を求めると云うに帰する。しかし本件保護事件記録並びに少年調査記録を精査検討し、少年の性行、経歴本件当時の生活状況、家庭環境、本件各非行の動機態様等諸般の情況を総合考察するときは原裁判所が「6中等少年院に送致する理由」として説示している如き判断の下に本人を少年院に送致すべきものとしたことは相当と認められ、所論のように本件処分が著しく不当であるとは認められないから、この点の論旨もまた理由がない。

よつて本件抗告は理由がないから少年法第三十三条第一項により主文のとおり決定する。

(裁判長判事 坂井改造 判事 荒川省三 判事 今村三郎)

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